『石原慎太郎を読んでみた』文庫版と電子書籍版について

2013年に原書房から出版した豊崎由美さんとの共著『石原慎太郎を読んでみた』がこのたび中公文庫に入りました。文庫化にあわせて電子書籍化もされたのですが、文庫版と電子版で内容を変えています。やや異例の試みだと思われるので、詳細と経緯の説明を少ししておきます。

※その他各種プラットフォームで配信

 まず違いについてですが、

  • 文庫版=入門版
  • 電子版=完全版

というふうに位置付けが差別化されています。

なんでそんなことになったのかというあたりの事情をまえがきから抜粋します。

当初は普通に文庫に落とすつもりだった。でも、どうせだったら発刊後に発表された記事も全部収録した完全版にしたほうがいいんじゃないかという話になるのは、まあ、自然の流れというものだ。
だが『石原慎太郎を読んでみた』という本は、実は文章やデータの量がすごく多い。箸休めに挟んだコラムだけで四百字詰め原稿用紙換算で百枚近くあったりするのである(箸休めなのに)。そこに新たな原稿類を足すと大変な厚さの文庫本になってしまう。
そもそも単行本出版の時点で、慎太郎小説を読んでみたいなんて酔狂な読者がいったいどのくらいいるのかと危惧された本書である。無闇に厚くするのはいかがなものか、むしろ新規読者獲得のためにスリムにするべきではないのか、といった議論の果てに、トヨザキさんから「文庫版は抄録で軽くしてさぁ、完全版を電子書籍で出せばいいんじゃないの-!?」というアイディアが出て、「おお、いいじゃないですか。それでいきましょう」ということで、変則かつ実験的な出版形態が採用されることとなったのだった。

 厚くなってもかまわないから完全版も紙で出せ!という意見もあり、著者サイドとしてもまったく同意なのですが、出版事情というものがそれを許さないのですね……。

 

つづいて、文庫版と電子版の具体的な収録内容と違いについて。

親本は、全12章+コラム6本、短篇長篇別の全作品リスト、参考文献という構成でした。

入門版である文庫版は、

という内容です。一言で言うと、慎太郎小説の中では比較的有名どころに焦点を絞った内容となっています。

 

完全版である電子書籍版は、

  • 親本の全章、全コラム
  • 石原慎太郎を読んでみたリターンズ」@『ユリイカ石原慎太郎特集号の全採録(親本出版後に発表された慎太郎作品のフォローアップ。具体的には、短篇集『やや暴力的に』、ノンフィクションノベル『再生』、長篇恋愛小説『フォアビート・ノスタルジー』、『天才』を取り上げています)
  • ユリイカ石原慎太郎特集号で栗原が担当した作品ガイドに加筆修正したもの(長短篇あわせて40篇ほど。『ユリイカ』後に発表された書き下ろし長篇『救急病院』『凶獣』についても電子書籍版のために新たに書き足しました)
  • 婦人公論』の鼎談
  • その他、書評の類
  • 全作品リスト
  • 参考文献

という内容です。『ユリイカ』の「リターンズ」が400字詰めで60枚前後、作品ガイドが7、80枚くらいあるようなので、もろもろあわせて200枚弱の増補になっているのではないかと思います。

ということでよろしくお願いします。